ここ数年で最も面白いノンフィクション本を読んだ。そのタイトルは「嫌われた監督 落合博満は中日をどう変えたのか」鈴木忠平著

落合博満が中日の監督を務めた8年間についてのノンフィクション本。ただ落合博満について記載があるのではなく、中日に所属する選手、またはスタッフが主人公となり、その人間を通した落合博満が語られる。この構成が実に美しい。
1年で1人の選手をピックアップし、その選手の視点から落合博満という監督を浮き立たせる。各章を読むたびに本を閉じた。景色が変わって見えた。まるであの時代の中日にタイムスリップしたかのような、圧倒的な臨場感。
「川崎憲次郎」編では開幕投手の謎が明かされる。大投手をいかに終わらせるか―落合なりのはなむけだったのだろう。
「森野将彦」編では、立浪からポジションを奪う困難さを通して「レギュラーとは何か」が深く心に刻まれた。あれほどの努力が必要なのかと。
「福留孝介」編の特別な師弟関係。
2007年の日本シリーズは山井大介ではなく、「宇野勝」、「岡本真也」の視点から描かれる交代劇。
「吉見一起」編で語られる「エースとは何か」。
「和田一浩」編では、チーム野球と思われた落合中日から意外にも「プロ野球選手の個」が浮かび上がる。
そして「荒木雅博」編で明かされるアライバコンビ交代の真相。
各選手のエピソードを通して、落合博満という監督の哲学と人間性が立体的に浮かび上がってくる。これぞノンフィクションの醍醐味だ。