17年前、僕が上京を控えていたとき、梅ヶ丘と吉祥寺、二つの街に心が揺れた。吉祥寺は街の規模、便利さ、ブランド力、評判、交通の利便性、そして家賃においてもほぼ全てのスペックで勝っていた。だから僕は合理的に、吉祥寺を選んだ。それが3年後に僕を札幌へと送り返す運命だとは知らずに。

だけど梅ヶ丘も、特別な場所だった。何かが僕を引きつけたのは、たぶん梅祭りのせいかもしれないし、東京に未熟な僕自身のバイアスかもしれない。でもその後、17年間一度も足を踏み入れなかった。東京に住んでいる間、梅ヶ丘の話をしても「なんで梅ヶ丘？」という反応が多く、具体的な用事で行くことも、梅ヶ丘に住む人に会うこともなかった。

最近、17年ぶりに梅ヶ丘に来て、昔の自分を思い出した。なぜあの時、この街に心を奪われたのか、他の街と何が違ったのか。そして、もし当時梅ヶ丘を選んでいたら、人生はどう変わっていたのか。多分結果は同じだっただろうけれど、直感だけで選んだ人生も少し羨ましくなる。

いつも僕はスペックで、合理的に選んできた。だから時々、「なんでそうしたの？」と質問すると「直感かな」と答える人が羨ましく感じる。特に梅ヶ丘のような、17年前にキラキラに見えたが選ばなかった場所を思い出すと、少しだけ過去の自分に逢いたくなる。