台湾には野良の犬、野犬がいる。結構な頻度でいる。突然いる。街中を歩いていても1日2~3匹に会う。
野犬というと、光った目、鋭い牙、今にも襲いかかろうとしている獰猛な野犬を想像する。比較的安全である国の台湾での唯一の注意事項として、渡航前には「狂犬病に注意」という達しを何度も見て、実に怖いものだった。
だが、僕の出会った台湾の野犬は優しい。
初めて台湾の野犬と出会ったのは台中駅の降りてすぐの歩道だった。たくさんの人の中に紛れて、普通に歩道を犬が歩いていた。あまりに普通に歩道を真っ直ぐ歩いているものだから、最初は散歩中かと思った。しかし犬をよく見てみると、リードがない。首輪もなかった。犬は野犬だった。
野犬は車道にはみ出ることなく、歩道を進み、赤信号はしっかり待ってから横断歩道を渡っていた。なんと野犬は交通ルールを理解しているのだ。
「噛まれたら狂犬病」という恐怖から、野犬に出会った時は驚いたが、野犬は尻尾を振って歩いているわりには、こちらに近寄ってこない。随分と立場をわきまえた野犬である。突然、道に寝ている野犬を見つけたこともあった。
ここからは完全に妄想と推測なのでご容赦願いたい。
きっと台湾の野犬は台湾社会に馴染んだ野犬同士が生き延び、交配し、馴染まなかった野犬はのたれ死んだか、山に去ったのだと思う。それが何代にも渡り、DNAが強くなり、台湾には社会に馴染み、迷惑をかけない野犬が生息するに至った。
彼らは独自のルートで食べ物を入手し、台湾社会に馴染み、生き延びている。僕が見た中では痩せ細った野犬はいなかった。いい体格で筋肉のついた、凛々しい野犬ばかりだった。(太ってはいないところも野犬らしい)
おそらく彼らに食べ物を渡す現地人がいるのだろう。きっと彼らには複数の名前があるのだろう。飼われてしまうと、野犬ではなくなるので、どこにも飼われず、いろんな家を点々とする野犬の中のエリート野犬たち…。
商店街では寝ている野犬に出会った。何度目かの野犬の遭遇で勝手ながら愛情を持っていた僕は触れ合いたくなってしまったぐらいだった。
しかし、それは完全にご法度ではあると思うので、その欲望を必死に我慢して、写真を撮るに留めた。商店街では尾行して動画を撮影した。
不謹慎なことは充分承知だが、台湾の野犬は可愛い。
まず存在しないだろうが、台湾の野犬のキーホルダーやぬいぐるみがあったら、即買いしたいぐらいになった。
もしかるすると、それは北海道におけるキツネのような存在かもしれない。ドラマ「北の国から」の「ルールルルー」のシーンに象徴されるように、キツネは可愛い人気の高い生き物だ。本州の人はキツネに触れ合いたくて、北海道に来るのかもしれない。しかしもちろん、キツネにはエキノコックスがあるので、絶対に触れてはいけない。触れたくて触れられない生き物なのである。
台湾の野犬への勝手な片思いは続くのだ。
そんな気持ちを持って動画にまとめた。
(改めて注意。台湾の野犬は狂犬病を持ってますので、絶対に触れ合わないでください)