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ずさんな臓器移植

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ずさんな臓器移植

 幸運なことに健康体の僕にとって、「臓器移植法」の成立は蚊帳の外の出来事だったのです。僕自身、臓器を移植してほしいという状態ではないし、十代にとって死とはかなり遠いものです。ですが、死はどのような状況でやってくるかわからないものです。臓器移植というものを想像してみました。気持ち悪い。これが僕の第一感です。よほど大切な人ではない限り、人の身体の中は気持ち悪い。例えは悪いかもしれませんが、他人の磨いた歯ブラシを自分の口に入れるのは、想像しただけでも気持ち悪い。

 当初、ニュースや臓器移植推進論者の話を聞く限りでは、抵抗はかなりあるけど、有効利用になるならいいんじゃないかな、ぐらいの考えでした。ですが、一例目の高知赤十字病院の例を調べていくと、その考えは安易な考えだということに気づかされました。

 まず、プライバシー無視の過熱報道。ここで嫌気がさしましたが、百歩譲ってここの部分は無視するとしたとしても、肝心の治療のずさんさにはひどいものがあります。診断した医師は運ばれてきた四十代女性が、脳動脈瘤の破裂によるクモ膜下出血であり、グレード5(最重症)に当たり、手術不適当との判断をしました。しかし、初期治療が迅速かつ安全に行われればグレート5でも助かる可能性があるそうです。ここに高知赤十字病院の判断が正しかったか疑問が残ります。無呼吸テストに関するミスも行っています。三例目、古川市立病院においても、初期治療の遅れ、無呼吸テストミスを犯してしまっています。

 日本の臓器移植に関することは諸外国より遅れていると言われています。確かに、身近でドナーカードを持っている人は見たことはんいですし、臓器移植に関する法律の制定は諸外国より後です。では日本以外の国はどうなっているのでしょうか。オーストラリアでは、運転免許証に臓器提供の諾否を記載する義務があるそうです。オランダでは98年春から国家が18歳以上の全国民にドナー登録の意思の有無を確認する用紙を送付し、その結果をコンピュータに登録するという政策を行っています。さらにスウェーデンでは、ノン・ドナーカードを持っていないと、あらゆる身体部分を強制的に提供させられるということです。

 現在、日本ではドナーカードの義務が強制させられることはありません。ドナーカード不所持で、強制的に臓器を提供させられることはないはずです。しかし、その点に関してはかなり怪しいものがあるのです。移植法成立二例目となった慶応病院でのドナー患者は、海外赴任の時に臓器提供の意思を持ったと伝えられていますが、ドナーカードの詳しい記載内容や所持の時期は公表されず、ドナーカードは入院後数日して登場してきたのです。四例目の千里救命センターでの五十代男性はドナーカードを持っていたかは不明なままで、心臓、肺、肝臓などは摘出後不適当ということで終わったのです。さらに脳死判定時、脳波測定ミスや無呼吸テストのミスがありました。

 では、ドナーカードを持っていたらどうなるか? 三例目の古川市立の青年の場合は、まず事故現場でそれが発見され、病院へ搬入される時からビニール袋の一番見えるところに置かれ、病院到着以降、脳外科医師の診断を受けることのないまま脳死状態へと追いやられていきました。

 つまり、医師に“脳死”という状態を期待されている現在、最善の治療は受けられないのです。脳死は臓器移植されるべき、という考えが横行してる現在、助かるかもしれない瀕死状態は、積極的に脳死にさせられるのです。

 仮に臓器移植したとしても、拒絶反応が起こる可能性は極めて高いのです。現在では免疫抑制剤の開発により、生存は十人中七人までというほど多くなっています。術後、五年まで生きられるということです。しかし、その生存の内容というと、社会復帰ではなく、呼吸をしているだけでも生存というのです。さらに普通の生活に戻れるのはその中の三分の一程度であり、毎日免疫抑制剤を飲み、一年に何回かは移植臓器の一部を切り取って、検査しなければならなく、生活は良くならないのです。

 臓器を移植されてまで、少しでも長く生きようとは思いません(前述した通り“長く”生きることはできませんが)。現在のままだと、臓器移植のために脳死が推進される、それは最善の治療をすれば助かる患者さんにとって、迷惑をかけることになるのです。もちろん自分は今、臓器移植を必要とされる身体ではありませんから、その時によって変わることは考えられなくもないですが、他人のものが自分の身体に入ることに違和感を覚えます。脳と違って、臓器を思考することはできませんが、脳以外も自分の身体の一部であることは間違いありません。お腹が痛くなれば、悲しい気持ちになり、調子が良くなれば嬉しい。生命とはこういう些細なことでもあると思うのです。それが他人の臓器が入れば、自分の身体とは違うものが自分の身体の中で動くのです。訳がわかりません。気持ち悪いのです。脳だけが、意識の全てではないのです。生命の尊厳、やさしく言えば生きていることの尊厳、そこをおかされてまでの臓器移植は拒否しますし、最善の治療が行われない現在の臓器移植推進には断固反対します。

※参考文献

4893840207 生命の倫理を考える―バイオエシックスの思想
島田 アキ子

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高島學司編「医療とバイオエシックスの展開」法律文化社

4589017865 医療とバイオエシックスの展開
高島 学司

法律文化社 1994-04
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