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ヤマト運輸VS郵政省 ~信書を巡る攻防~

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ヤマト運輸VS郵政省 ~信書を巡る攻防~

 ヤマト運輸は積極的に「官庁」と戦った企業です。ここではヤマト運輸と郵政省との信書を巡る戦いを紹介します。

 ヤマト運輸が大口便から小口便に方向転換したことによって、郵政省の郵便分野に重なる部分がでできました。今まで郵政省の独占的な市場である郵便分野に、ヤマト運輸が殴りこみをかけてきたのです。ヤマト運輸の力をおそれた郵政省は競争相手として競うのではなく、郵便法という法律【何人も、他人の信書を送達を業としてはならない】を持ち出して、ヤマト運輸に規制を仕掛けてきたのです。

郵便法第五条2 
何人も、他人の信書の送達を業としてはならない。二以上の人又は法人に雇用され、これらの人又は法人の信書の送達を継続して行う者は、他人の信書を送達とする者とみなす。 

Ⅰ、最初の信書事件

昭和58年秋、ヤマト運輸は警告書を送りつけられました。宅配便業者が他人の信書の送達をすると、郵便法によって罰せられる、という内容でした。信書とは特定の人にあてた通信文を記載した文章であり、郵政省の定義する信書とは以下の表通りです。

郵政省の定義する信書

信書になる具体例

・書状、手紙⇒特定の人に当てたもののため
・業務用書類(納品書、受取書、払込通知書、請求書、依頼書、見積書、報告書、会議開催案内書)⇒特定の人に当てたもののため
・願書、申込書、申請書⇒意思表示を内容とするもの
・許可書、免許書⇒意思表示を内容とするもの
・クレジットカード、キャッシュカード⇒特定の人に当てたもののため
・お祝いやお礼(香典返し)の品物を送るときのお礼状⇒特定の人に当てたもののため

信書にならない具体例

・書類、雑誌、新聞など⇒特定の人に当てたものではない
・入場券、切符⇒意思または事実を通知していない
・手形、小切手、株券、債権等有価証券⇒特定の人に当てたものではない
・写真、絵画⇒通信文を記載したものではない
・レコード、カセットテープ⇒文書ではない
・お祝いやお礼(香典返し)の品物を送るときのお礼状⇒特定の人に当てたもののため

一定の条件のもとで信書とならない具体例

・入学案内、入社案内⇒広く一般人に対するもの
・広告印刷物、パンフレット⇒購買者一般に対する周知宣伝を目的とするもの
・カタログ、商品目録の類⇒購入者一般を対象とするもの

 しかしこれは、あくまで郵政省の定義する信書です。郵便法は1904年(明治37)に公布された法律で、これに関する「信書」の明確な定義はありません。ここでの論点は“信書とは何か?”ということです。上記の表に対する郵政省の根拠は郵便法と昭和27年の判例にあります。信書とは「特定の人に対して、自己の意思を表示し、またはある事実を通知するもので、文字または記号を用いて表したもの」という判例です。

 これは目下、急成長を続けるヤマト運輸に対する牽制でした。郵政省はさらにヤマト運輸を攻撃してきます。昭和59年6月、ヤマト運輸津営業所長宛に警告書がきました。運送を依頼された書類の中に、郵便法でいう信書に該当する文章が同封、貨物の一部に信書が入っていたことが判明した、という内容でした。

 ヤマト運輸津営業所は、この指摘に対し郵政省に “誓約書”を提出しました。内容は以下の通りです。連絡不徹底、不十分のため、朝礼、夕礼で再度伝える。ドライバー、グループ長に対し厳重注意、荷受の際、内容についての確認。そしてヤマト運輸の全営業所、全取扱店に信書を荷物に入れることはないように、という貼り紙をしました。これはヤマト運輸としては、最大限の徹底です。荷物の中身をすべて点検するというのは事実上不可能であったからです。しかし、7月21日付、8月13日付、それぞれ警告書がヤマト運輸宛に発送されてきました。

 ヤマト運輸は反撃に出ます。郵政省に対して回答書を求める文章の中で「香典返しの品物の中に挨拶状を同封して送ることが慣習化している」と書き、香典返しの例を上げて説明しました。

郵政省の主張⇒品物(=荷物)の中に挨拶状を入れる……信書となるので郵便法違反。

ヤマト運輸の主張⇒香典返しの品物(=荷物)の中に挨拶状を入れることが慣習化。これを法律で裁くことはおかしい。よって違法ではない。

 両者の主張は真っ向から対立しました。ですが、ヤマト運輸側は郵政省の主張を逆手にとる案を練ります。郵便法違反で罰してもらい、それをそのまま裁判所に訴え、新しく判例を作ろうという考えでした。分が悪い、と判断した郵政省はこの問題に対してはこれ以降沈黙しました。

Ⅱ、クレジットカードの宅配

事件の推移

ヤマト運輸 
1993年10月、地域子会社の九州ヤマト運輸が本格的にクレジットカードの配送業務を開始。

郵政省「信書送達は郵政省の独占事業と定めた郵便法に違反」と口頭で注意。番号や有効期限があることを指摘。

ヤマト運輸 
 カードは貨物ではあって信書ではない、と主張。一橋大学の原田尚彦教授の「クレジットカードは信用付与のための単なる道具」という鑑定書をつけて意見書を提出。

郵政省
 過去の判例から見ても信書と主張。「クレジットカードの宅配は郵便法違反であり、三年以下の懲役になる。配達依頼者も同様」

 従来、郵便局の簡易書留で送付していたクレジットカードの宅配でしたが、不在時の再配達の際に関するサービスが悪かったため、九州ヤマト運輸は、カード専用の保管箱を作り、配達時には印鑑をもらう、本人や家族がいない場合は持ち帰り、連絡を受けてから配達するという二つの原則を踏まえて実施し、さらに郵便局より一割安くしました。

 この“クレジットカードは信書か否か”論争は郵便局側が分が悪いようです。再び郵便法の話になりますが、郵便法は1904年に公布された法律で「信書」の明確な定義はなく、明文化されているのは判例のみで、旧南満州鉄道関係者が、東京~大阪間の鉄道を使って伝票を有料で配送した一件のみです。判決は有罪でした。郵便局はクレジットカードを信書としているが、当時はクレジットカードが存在せず、この判例中の定義をクレジットカードに当てはめるのは無理があります。

 ヤマト運輸は95年9月、「セキュリティーパック」の名称でクレジットカード宅配サービスの全国展開に踏み切りました。今もヤマト運輸と郵政省は対決状態にあり、解決を望むヤマト運輸としては法廷で対決するしか方法はありません。法廷の場できちっとした判断・解釈を下してもらうほうがする、しかし、これは解釈論の問題で、本質を裁くものではありません。

 鈴木社長(当時)は「本当の問題は法律解釈ではない」と指摘します。郵便事業を国が独占することが許されるのかどうかといった次元の話を展開します。民間に任せると通信の秘密は村れない、だから国が一手に引き受ける、というのが郵政省の主張ですが、民間に任せて秘密が村れなくなるというのは全く根拠のない話です。

 これからのヤマト運輸は郵便事業に対する郵政省の国家独占を認めない、という方向に向かっています。ヤマト運輸に刺激された郵政省は休日や夜間の配達、当日の再配達などのサービス改善策を検討し、「配達記録サービス」を行うなど民間並みのサービスになってきています。さらに「クール宅急便」並みの保冷サービス対抗するために、約100億円の予算要求をしています。

 規制でがんじがらめに抑えられてきている産業界の大半は規制緩和によって新しい事業が創出されることを望んでいます。ヤマト運輸は真っ向から戦う企業です。今も規制緩和、お客さんに対するサービス向上のため今も戦い続けています。 

参考図書

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